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12:55-13:00 | 挨拶:溶液化学シンポジウム/プレシンポジウム実行委員 |
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| 座長:細井晴子(東邦大学 理学部) |
13:00-13:40 | 松本剛昭(兵庫県立大学大学院物質理学研究科) |
| 「赤外キャビティリングダウン分光法による水素結合型分子クラスターの構造解明」
分子クラスターは数個~数百個の分子が集合した少数多体系であり、溶液等の凝集系とも気相分子とも異なる物質として興味が持たれている。分子クラスターを形成する力は分散力や水素結合などの弱い分子間相互作用であるため、超音速ジェット法という断熱膨張過程による極低温・無衝突条件下で生成を行う。ジェット中のクラスターは温度由来の分子間構造揺らぎが無いため分子間相互作用の精密解析が行える半面、原理的に濃度が1010〜12cm-3と希薄であるため、極限的な高感度分光法の適用が必要不可欠である。我々はppmレベルのレーザー光減衰検出が可能なキャビティリングダウン分光法を用いて、水素結合型分子クラスターの赤外スペクトルを観測することにより、2~3個の分子による2成分溶媒和クラスターの局所的水素結合構造、100~1000個からなる巨大クラスターの凝集系類似構造の解明を行った。講演では最新の研究結果を報告すると共に、クラスター科学が溶液化学の理解にどう貢献できるかについて意見交換ができればと考えている。
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13:40-14:20 | 伴野元洋(神戸大学 分子フォトサイエンス研究センター) |
| 「超高速赤外分光による分子間・分子内水素結合系の振動ダイナミクス」
水素結合は分子内結合と分子間力の中間の強度を持ち,自然界における分子構造
の安定化や化学反応機構に多大な影響を及ぼしている。本発表では赤外光パルス
を用いた時間分解ポンプ・プローブ分光によって観測したカルボニル化合物中の
CO二重結合伸縮振動の振動緩和過程をもとに,三つの異なる水素結合ダイナミク
スについて議論を行う。メタノール中の酢酸メチルを対象とした観測の結果,水
素結合数の異なる複数の溶質溶媒錯体が存在し,水素結合数によって振動緩和時
間が三倍以上異なった。また,重水中の酢酸メチルの場合,溶質と溶媒との水素
結合が数ピコ秒の時間スケールで解離・生成を繰り返していることが示唆され
た。強固な分子内水素結合を形成するアセチルアセトン・エノール体では,振動
緩和時間が水素結合強度の違いを反映し,結合が強い分子の振動緩和過程は弱い
分子よりも二倍程度速く進行することが分かった。
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14:20-15:00 | 藤井健太(東京大学 物性研究所) |
| 「イオン液体の凝集構造とイオン・分子の溶媒和」
イオン液体は強いクーロン相互作用が働くにも係わらず、分子性溶媒による溶媒和なしでイオン解離するため、従来溶媒では見られない反応場を形成する。また、イオン液体の多くは有機イオンで構成されるため分子設計の自由度が高く、その反応場特性(イオン性と分子性)を制御することができる。我々は、最も一般的なイミダゾリウム型イオン液体に着目し、その凝集構造の対アニオン種やアルキル鎖長依存性を系統的に調べてきた。X線・中性子散乱、Raman分光実験および計算化学的手法による研究を通じて、イオン液体中のイオンクラスター構造やナノ不均一構造に関する分子論的知見を得ることができた。さらに、水に不溶なイオン液体中に電解質が溶解するなど、イオン液体中ではその溶媒特性に基づいた特異的溶媒和が起こる。本講演では、イオン液体中の金属イオンや高・低分子の溶媒和構造についても言及し、従来溶媒系との類似点や相違点について議論する。
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| (休憩) |
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| 座長:吉田紀生(分子科学研究所) |
15:30-16:10 | 狩野康人(京都大学 化学研究所) |
| 「水中でのタンパク質の構造ゆらぎに対する自由エネルギー解析」
タンパク質への水和の効果を調べるために、水中におけるタンパク質の溶媒和自由エネルギーの計算を行った。ただし、従来の分子動力学シミュレーションで用いられてきた自由エネルギー計算手法を、タンパク質のような巨大な分子に適用することは容易ではない。そこで本研究では、エネルギー表示法を用いて球状タンパク質(シトクロムc)の溶媒和自由エネルギーを計算した。その結果、平衡状態におけるタンパク質の分子内エネルギーと溶媒和自由エネルギーとの間に補償関係が成り立つことがわかった。また、タンパク質-溶媒間相互作用の引力項と斥力項の役割について調べたところ、静電相互作用が支配的な引力項は溶媒和自由エネルギーと線形応答の関係にあった。一方、排除体積効果で表される斥力項は、溶媒和自由エネルギーとは相関がなかった。本講演では、タンパク質-水系の計算結果の報告に加えて、共溶媒の効果についても報告する予定である。
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16:10-16:50 | 横川大輔(大阪大学 蛋白質研究所附属プロテオミクス総合研究センター) |
| 「分布関数を用いた熱力学量の計算」
溶液内化学反応における熱力学量を求める際に直面する問題として、自由
度の多さがある。例えば分子の水和の場合、着目する分子以外に周りに無数の水
分子が存在する。この系の水和自由エネルギーを厳密に計算するためには、無数
の原子の座標に関する統計力学的な処理が必要となってしまう。しかし適切な近
似を導入すると、これら無限な数の情報を直接用いなくても、ある物理量に関し
て統計平均を取った分布関数から目的の熱力学量を算出することができる。これ
により、計算が容易になるだけでなく、求めようとしている熱力学量と着目した
物理量との関係をより明らかにすることができる。私はこれまで、分布関数と様
々な理論を組み合わせることで、自由エネルギーやエントロピーなどの熱力学量
を算出してきた。本講演では、その中の幾つかの例を用いて説明する。
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16:50-17:30 | 細井晴子(東邦大学 理学部) |
| 「ヘテロダイン検出二次非線形分光法による膜タンパク質トポロジー決定の開発」
タンパク質の立体構造を知ることは、生体内におけるタンパク質の機能発現や制御機構を解明する上で非常に重要である。X線結晶構造解析法や核磁気共鳴法によって、タンパク質のほぼ全原子に関して精密な構造情報が得られる。
しかし、結晶化しにくい膜貫通タンパク質や分子量が巨大となるタンパク質複合体では、精密な構造情報を得ることは通常難しい。
そのような場合、リボンモデルやトポロジー図のような“完全ではないが役に立つ”構造情報だけでも重要な情報となる。
ヘテロダイン電子和周波発生分光法は、界面分子の絶対配向を決定する方法である。現在、本手法を用いて、膜タンパク質やタンパク質複合体のトポロジーを決定する新しい方法論の開発を進めている。本講演では、αへリックス構造をもつモデルペプチドと膜貫通タンパク質について進行中の研究について報告する。
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