HOME >> セミナー

分子理論化学セミナー(2010年度)

池田昌司博士(筑波大学数理物質科学研究科物理学専攻)

「ガラス転移の平均場描像:モード結合理論 vs. レプリカ理論」

日時:2010年5月28日(金)15:00-16:30
場所:京都大学工学研究科(桂キャンパス)A2-302号室

液体を急冷すると、分子の運動が劇的にスローダウンし、ついにはアモルファス 状に凍結する。これがガラス転移である。ガラス転移研究の大目標は「動力学が 何故遅くなるのか」を明らかにすることだが、いまだに満足な解答は存在しな い。際立って異なるシナリオが多数提案されているが、大筋としてどのシナリオ が正しいのかもわからないのが現状である。 多数あるシナリオの内、最も定量的な議論が進んでいるのが、モード結合理論 (MCT)である。MCTは液体の運動論の立場からガラス転移にアプローチする理論で あり、密度の時間相関関数の二段階緩和などを正しく予言する。いくつかの状況 証拠から、MCTはガラス転移の動的な平均場理論であり、液体のレプリカ理論が 静的な平均場理論だと信じられている。しかし、この全く異なる2つの理論を結 ぶ予想は非常に美しいが、その根拠は十分でない。本講演では、ガラス転移の平 均場描像を導入した後、MCTとレプリカ理論の平均場理論としての整合性を検証 した、最新の研究成果を紹介したい。
(参考文献: A. Ikeda and K. Miyazaki, submitted. [arXiv:1003.5472])

大西裕也博士(フロリダ大学)

「結晶軌道法による高分子鎖の高精度電子状態計算」

日時:2010年5月28日(金)13:30-15:00
場所:京都大学工学研究科(桂キャンパス)A2-302号室

近年、有機太陽電池や有機EL素子において高分子材料が大きな注目を集めてい る。これらの高分子材料で鍵となるのは、バンドギャップ、イオン化ポテンシャ ル、電気陰性度などであるが、実験的にこれらを求めることはしばしば困難であ るため、高精度電子状態計算によりこれらの物性値を定量的に評価することが求 められている。周期系に対する電子状態計算法の一つである結晶軌道法は、一次 元の周期構造をもつ高分子の電子状態計算を行うために有力な手法の一つであ り、分子に対して開発されてきた様々なpost Hartree-Fock (HF)法と組み合わせ ることで周期系の高精度計算が可能となる。しかしながら、周期系のpost HF計 算では逆格子空間の波動ベクトルに関する多重和を計算する必要があり、これが 著しい計算コストの増大をもたらすなど克服すべき課題が多く残されている。本 講演では、結晶軌道法の基礎から、周期境界条件下でのHF計算、二次の摂動論、 軌道エネルギーに対する摂動補正の概要を説明した後、最近我々が開発した二次 の摂動論の高速化のための逆格子空間の粗視化近似について解説する。