HOME >> セミナー

第121回 物理化学セミナー

日時:2006年(平成18年)10月28日(土)14:00-17:00
場所:京都大学工学研究科(桂キャンパス)A2-307号室

さわやかな秋となりましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は講師として物理化学や化学物理・生物物理の境界領域でご活躍の新進気 鋭のお二人の理論研究者をお招きします。宮崎先生はハーバード大学、コロンビア大 学でのご研究活動を経て先月ご帰国されたばかりです。モード結合理論を武器に留学 時にされた研究についてお話くださいます。秋山先生のご研究は複雑な現象のエッセ ンスを鮮やかに切り出す点が大変魅力的です。お二方とも、多岐にわたる理論体系に 精通していることは勿論ですが、非常に分かり易い講義には定評があります。理論の 方のみならずに幅広い実験分野の方にも興味深いお話をしてくださるものと思いま す。

今回は京都大学工学研究科が移転した桂キャンパスでの初の開催となります。またい つもよりも一時間繰り上げたスタートとしてみました。お時間の許す方はキャンパス での昼食・散策をされた後にセミナーという頃合いになるかと思います。学部生から シニアまで広い分野の方々が奮って御参加ください。

世話人: 佐藤啓文

宮崎 州正氏(高知工科大学総合研究所 助教授)

「やわらかいガラスと非線形レオロジー」

「ガラスの心」と歌にもあるように、ガラスは脆くて硬い物質の代名詞であ る。しかし、私たちの身の回りには、脆くも硬くもないガラスが溢れている。髭剃り クリームの泡や、コロイド、ゲルなどがそれである。生きた細胞もガラスの一種であ る、という説まである。これらの物質は、ある条件の下で、アモルファス状態のまま 運動が凍結してしまう。これをガラス転移と言う。さて、このような「やわらかいガ ラス」をガラスたらしめている原因を探るための、最も簡単な実験方法は、わずかに 引き伸ばしたり揺すったりしして、その際の変形や力(線形応答)を測定することで ある。これをレオロジー実験と言う。普通、我々はその応答から、我々の知りたい情 報を直接引き出すことができると信じている。しかし、極めて長い時間スケールの運 動が重要である「やわらかいガラス」で、そのような実験をするのは容易ではない。 我々は、引き伸ばしの度合いをはるかに大きくした場合の非線形応答を測定すること により、この困難が克服できる可能性を主張してきた。本講演では、今までの研究の 背景と、非線形レオロジー実験の手法、さらに理論的な原理をわかりやすく説明する 予定である。

秋山 良氏(九州大学理学研究院化学部門  助教授)

「◯、o、。からはじめる物理化学:細胞質での生体分子の混み合い問題と溶媒効果」

細胞質は蛋白質やペプチド等の巨大分子で混み合っている。蛋白質の会合体 や天然構造の安定性は、それら混み合い分子自身の濃度に支配される。さらに、混み 合い分子の存在は、蛋白質の安定性を変化させるだけでなく、細胞質の状態まで変化 させてしまう可能性もある。これらは混み合い問題と呼ばれ、細胞生物学上も重要な 問題である。本講演では、特に前者の巨大分子の会合安定性について注目する。巨大 分子に比べて溶媒分子は非常に小さいため、混み合い問題においては、溶媒は連続体 的取り扱いで十分であると見なされてきた。しかし、◯:大粒子、o:中粒子、。: 小粒子という単純な三成分系を用いた理論的アプローチから、混み合い分子濃度依存 性において溶媒の並進運動の効果が極めて重要である事が分かった。理論的研究の報 告に加えて、実験との関係等についても議論したいと考えている。

21世紀COE学術講演会

宮崎州正氏(高知工科大学)

「ガラス転移と動的相関長」

日時:2006年10月27日(金)14:00-15:30
場所:京都大学工学研究科(桂キャンパス)A2-307号室

ガラス転移は、(見かけ上)熱力学的な異常や巨視的な長距離相関を示さずに、 緩和時間だけが巨視的に発散する、まことに不思議な現象です。 しかし、ガラス転移のスローダイナミクスに、協同現象に特徴的な相関長が隠されていることは 古くから予想されておりました。その相関長を実際に捕らえることできるようになったのは、 ようやく1990年代も後半に入ってからです。そのころ、特にシミュレーションによって、 過冷却液体中に動的に不均一な構造が見られること、そしてその不均一な構造がガラス転移点に 近くなるにつれて成長することが、明らかになってきました。私たちは、モード結合理論を拡張して、 平均場理論の枠組みになかで、相関長を計算することに成功しました。ガラス転移のあらゆる理論において、 相関長を第一原理的に導出したのは、これが初めてのことです。
連絡・お問い合わせ先 分子工学専攻・佐藤啓文(2548)

化学教育トリニティH18年度第1回特別講演会

21世紀COE学術講演会

Prof. Paul Anthony Madden (エジンバラ大学,UK)

From first-principles to material properties: realistic studies of ionic melts and their electrochemical interface.

日時:2006年6月19日(月)15:30-
場所:京都大学工学研究科(桂キャンパス)A2-307号室

Paul A. Madden 教授は、分子動力学(MD)法を中心とした計算機シミュレーションによる 物質の構造と性質の研究において世界的指導者のお一人です。現在は、新しいシミュレーション用ポテンシャル関数の 開発やCPMD などの基礎研究、およびこれらを基にした材料開発等を行っておられます。 今回、日本学術振興会の外国人招聘研究者(短期)として滞在されており、 この講演はその一環として行われるものです。
連絡・お問い合わせ先:分子工学専攻・佐藤啓文(2548)